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不確定性原理


 さて、今まで粒子だと思っていたものが波の性質も持っていたり、波だと思っていたものが粒子の性質も持つ。それが分かったことによって、実に大変なことになるのです。
粒子の運動を正確に把握するためには、ある時刻における位置と速度を正確に測定する必要があります。量子力学では粒子は空間的に広がりを持ち、波のようにふあふあ動くことから、この位置と速度を定めることができないのです。位置を正確に測定しようと思ったら、速度が曖昧になる。速度を正確に測定しようと思ったら、今度は位置が不明確になる。
位置の曖昧さを量であらわしΔxとします。速度に質量を掛けたものを運動量と言うのですが、その曖昧さをΔpとすると、この二つを掛け合わせたものは、ある決まった定数よりも小さくなることができない。これを「不確定性原理」といいます。式で書くと、

 h ≦ Δx・Δp

hはプランク定数といい、値は、6.6 × 10の-34乗 ジュール秒 です。この値の意味は6.6を、1の後に0が34個付く大きな数で割ったもの。ジュール秒と言うのは単位です。非常に小さな数値ですがゼロではないということ。もしゼロなら、上記の式から位置の曖昧さも運動量の曖昧さもゼロにできることから、位置と運動量を正確に測定できるということ。もしそうなら量子力学なんてこの世に存在しなかったでしょう。

 なぜ、位置と運動量を正確に測定できないのかは、図17「不確定性原理」を参照ください。簡単に言うと、
・相対性理論のところでも話しましたが、物を測定するには光を当てなければなりません。
・電子のような小さい粒子を観るには、波長の小さい光を当てなければなりません。なぜなら光は波という性質を持ち回折(物体の裏側に回りこむ現象)が起こるからです。
・光はまた粒子としての性質も持つことから、波長に対応したエネルギー持つ。アインシュタインの光量子説によると、波長λの光(光を粒子としてみた場合、それを「光子」と言う)が持つエネルギーEは、

 E = h・c/λ (hはプランク定数、cは光の速度)

となります。つまり波長が短いほど大きいエネルギーを持つ。そのエネルギーを持った光子が電子に当たると、電子のような小さな粒子は弾き飛ばされてしまうでしょう。
つまり、エネルギーの小さな(波長が長い)光を使えば電子の位置はぼんやりとしか見えず、エネルギーの大きな(波長が短い)光を使えば、電子を弾き飛ばしてしまう。するともともと電子が持っていた運動量に変化を与えてしまう。
結論、電子などの小さな粒子は、その位置と運動量を同時に正確に測定することはできない。
これは現代の技術レベルが低いからではありません。将来科学技術が進歩すれば解決できることではないのです。我々がどんなに努力しても乗り越えられないこの宇宙の本質的な問題なのです。

 さて、ここで位置と運動量が同時に定めることができないとなぜまずいのでしょうか?
この事実が明らかになったとき物理学者たちは大変なショックを受けました。物理学の危機が叫ばれました。まさにこの世の終わりです。なぜか?一般の人には全く理解できない。
量子力学は一般の人々にも誤解が多いものです。「因果律の破綻」とか、これまでの古典力学が誤りだと解ったことによる「機械論的な唯物論の終焉」とか、「唯心論、宗教の復活」とか、果ては「マルクス主義は死んだ(注1)」とか?全然量子力学とは関係ない話まで持ち出す。こんなことを言い出す人たちは、何か勘違いをされていませんかね?
良いですか?なぜ、位置と運動量が正確に測定できないことが物理学者にとって深刻なのか?それはニュートンの方程式が、数学的には時間に関する2階の常微分方程式だったことが原因です。2階の常微分方程式を解くには二つの積分定数が必要です。その積分定数はある時刻の位置と速度です。つまりその時の位置と速度が分かれば任意の時刻の位置と速度を正確に計算することができるのです。
それまでの物理学者にとってニュートンは神様でした。このニュートンの編み出した方程式を解くことができないと知ったとき、物理学者の受けた衝撃は大変なものだったのです。お分かりですか?
「唯物論の終焉」なんて唱えている人々は、この量子力学の衝撃が、まさか「2階の常微分方程式を解くには二つの積分定数が必要」ということが原因だったとは思いもよらないでしょう。
最後にアメリカの物理学者ファインマン(注2)の言葉を「量子力学が解った。と思ったら、それは量子力学を理解していない証拠だ」
(注1)共産主義のもとになっているマルクス(ドイツの経済学者)の哲学は、史的唯物論という歴史観が基になっている。マルクスの考えが正しいかどうかと素粒子の振る舞いの間に一体何の関係があるの?
(注2)1919〜1988

【参考】量子力学の基本方程式である「シュレディンガー方程式」(前出)の簡単な導出方法を、図17の「シュレディンガー方程式」に記しました。

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