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素粒子の振る舞いとモデル化


 素粒子は顕微鏡でも見えないため、どのようイメージしたらいいのでしょうか?
小さな粒ですか?丸いパチンコ玉のようなもの?でもそうみなさないとイメージがわきません。イメージがわかないと理解もできないのです。このように直接見えない電子などの物体を日常目にできるもの(たとえばパチンコ玉のようなもの)に置き換えることによって理解する。これをモデル化といいます。モデルが実際の粒子の振る舞いと矛盾しない限り、どんなモデルに置き換えてもかまわないのです。それが素粒子科学の基本です。例えば、原子や素粒子を点に置き換える。あるいは小さな球に、または雲のようにふあふあしているもの。いずれもイメージを掴むためのモデル化です。(補足1)
素粒子の最も小さな単位クォークも一つのモデルです。クォークは単体で観測することができないのです。なぜなら他のクォークと結びついていて切り離すことはできません。しかしクォークを仮定すると様々な現象を説明できるだけでなく、(ここが重要)素粒子の振る舞いを予測できるのです。実験により予測通りの結果が得られれば、その理論の正しさが証明されるわけです。
ただし重要なこと。素粒子の姿として本当に点や球や雲が存在するわけではありません。なぜならそれらは小さすぎて人間の目には見えない。例えば野球のボールは実際に見えますから、それはそれでそれが”真の姿”とも言えなくはない?ただし原子や素粒子は見えません。いくら顕微鏡で拡大しても限界があります。その他の検出器(例えばガンマ線顕微鏡や加速器)を使ってその残像を検出したとしても、それはある現象を引き起こし、その痕跡が検出されたというもの。それは粒子の一特性を現しているに過ぎないのです。その痕跡が粒子”その物”とは言えません。従ってそのもの(素粒子)の真の姿など分からない。否、そんなものは存在しないのです。だから絶対に正しい”真のモデル”などないのです。

・素粒子の移動
 たとえば、一つの素粒子が空間のA地点からB地点まで移動したとします。(AとBはとても近い距離)これを移動とは考えずに、A地点の空間が「物体有」から「物体無」の状態に変化し、同時にB地点の空間が「物体無」から「物体有」に変化したと解釈してもいいのです。このように何もない空間でも、さまざまな状態をとることができるというのが素粒子科学の考え方の一つです。(図28「素粒子の振る舞い」参照)
普段日常での我々の感覚では、そこに物がある(人がいる)のと何もない(人がいない)のとでは全く異なりますが、素粒子の世界では、粒子がそこにあるのとないのでは、その場所(空間上)の状態(量的なもの)が異なるだけで、本質的には違いがないとみなすのです。
素粒子科学では、何もない空の空間を「真空」と呼びます。そこは全く何もないのではなく、可能性としてそこから何でも生まれてくる。その真空からいくらでも粒子を取り出せるのです。すなわち「真空」とは粒子が無限に収まっている空間です。ただしその粒子自体は我々の計測器には掛かりません。なぜならマイナスのエネルギーを持っているからです。計測器は本質的にプラスのエネルギーしか測定できないのです。真空とは、マイナスのエネルギー状態に粒子が満遍なく収まり、プラスのエネルギー状態には粒子が空であることを指します。(これを「空孔理論」という)
ただし、誤解してはならないのは、そこから"ただで"いくらでも粒子を取り出せるわけではないということ。エネルギーの保存の法則は改ざん不可能です。エネルギーの保存法則が破られるのは、量子力学の「不確定性原理」を式で表したもの

 h ≦ Δx・Δp の位置と運動量を時間とエネルギーに置き換えたもの h ≦ Δt・ΔE (hはプランク定数)

で表せます。この式の意味は、ごくごく短い時間Δtなら、わずかなエネルギーΔEの分だけ保存されなくてもいい。つまり何もない真空からエネルギーを取り出せるということです。(ほんまかいな?)ただし、すぐに取り出したエネルギーと同じ量を返さないといけませんよ。そのエネルギーが多ければ多いほど、返却期限は短いのです。借金でも金額が大きいほど返済期間が短いのと同じ。

・空間の構造
 何もない空間、すなわち真空は本当に何もないのではなく、そこには粒子が詰まっているというわけです。(図29「空間の構造」参照)
従って、粒子は周りの(真空の)粒子に挟まれて動くことができません。もしくは強い力で、隣の粒子を押しのける必要があります。これが最近発見された「ヒッグス粒子」によって、なぜ物体が質量を持つのか、別の言い方をすれば物を動かすときになぜ力が必要なのか、その理由を明らかにした。ということです。
何も無いとみなされていた真空にあらゆる粒子が詰まっていた。だからそこから好きなだけ(無限に)粒子やエネルギーが取り出せる?わけではありません。ヒッグス粒子を検出する。すなわち真空からヒッグス粒子を取り出すためには、とてつもない高いエネルギーをその真空に当てる必要があったのです。そのエネルギーこそが代償です。
ヒッグス粒子が真空に充満している状態では、個々の粒子が観測者を起点とした慣性系において、どの方向にどれだけのスピードで動いているかなど分かりません。原理的に分からないのではありません。分からないのではなく、個々の粒子など存在していないのです。全体で一つです。それを確認する量子力学的観測として測られるのは、個々の粒子の振る舞いではなく、全体としての割合、すなわち確率値のみです。だだしこの割合の計測値と理論から求められた数値が驚くべき精度で一致するのです。これが量子力学の大きな特徴です。

・素粒子の相互作用
 素粒子同士が力を及ぼし合うということはどういうことでしょうか?
素粒子科学では、力を媒介する粒子(これをゲージ粒子といいます(図27「素粒子の分類」参照))を投げたり受け取ったり、まるでキャッチボールをするかのようにやり取りする現象として説明されます。(図30「素粒子の相互作用」参照)

・素粒子と質量
 最近、今まで質量がゼロかもしれないと思われていたニュートリノが質量を持つことが確かめられたそうです。しかしあまりにも軽いために、まるでチリを吹けばただちに吹き飛ぶのと同じく、わずかな力で光の速度に匹敵するような高速で飛び去ってしまうということです。従って陽子や電子のようにその場に留めておくことはほとんど不可能でしょう。
ここで質量を持つということはどういうことなのか考えてみましょう。質量というのは物質すなわち粒子に動きにくさをもたらすものです。つまり、図29のように、周りを真空の粒子(ヒッグス粒子)に取り囲まれると、粒子は前にも後ろにも動けなくなる。動くためには満員電車と同じよう強い力で周りの人(粒子)を押しのける必要があります。もし周りにヒッグス粒子がなければ簡単に動くことができるのに。それに対して光子は、図29のフォノンと同じように波となって妨げるものなく、自由に飛び去ることができるというもの。即ちそれは近年発見されたヒッグス粒子が空間を満遍なく満たしているから、ということです。ヒッグス粒子と質量を持つ粒子との間で強力な相互作用をする結果、動きにくさの源である慣性質量が生まれる、ということです。(図29「質量はなぜ存在するのか」参照)
もう一つの考え方としては、まず素粒子には、静止することができない質量がゼロの光子などの粒子と、陽子や中性子、あるいは電子のように質量を持ち、光子のように飛び去ってしまわない素粒子がありますが、どこが違うのでしょうか?(補足2)
つまり素粒子は皆光の速度で移動している。ただし電子や陽子などは、その場で振動しているため、光子と違ってその場に留まることができる。ということ。(図31「スピンと素粒子の関係」)を参照。

以上のように、素粒子は量子力学の理論に従い「粒子としてのモデル」と「波としてのモデル」の二つが考えられます。このモデル化によって、素粒子に対する理解を深めることが出来るのです。
ただし、留意しなければならないこと、それはいかなるモデル化も現実そのものではない以上、そこに必ず違いが発生するということです。粒子を小さな球とみなし、それを拡大して捉える。拡大されたイメージとして粒子を認識する。これらは完全な誤解であり、その時点で実在の粒子とは異なります。どのようなイメージにもそこに必ず現実との差異・解離が伴い、それを完全に排除することは不可能ということです。

(補足1) このような空間的な存在(点や球)に置き換えるモデル化の他、波を以下のような指数関数に置き換える数学的なモデルもあります。
 φ(r,t)=Aexp{i(kr−ωt)} ※rは位置、tは時間。波は位置と時間の関数。kは波数(波長の逆数に2πをかけたもの)、ωは角振動数(周波数に2πをかけたもの、iは虚数単位)
これは一般的に複素数で表されます。複素数を使うのは計算上便利だからです。このような関数で状態を表す(「シュレディンガー方程式の拡張・関数空間」参照)こと。他にも、代数学の行列(注1)とベクトル(注2)で表す(「シュレディンガー方程式の拡張・参考:行列力学」参照)こともできます。これらはすべてモデル化です。
(注1)縦横に数字を並べたもの。その一つ一つの数字を要素という。要素は一般的には複素数(二つの数字(実数部分と虚数部分)で表現される数)
(注2)状態を数字の列で表現したもの。ベクトルに行列を作用されると状態が変化する。これらはみな量子力学の計算に役立つ。

(補足2) もし陽子や中性子が光の速度で飛び去ってしまうなら我々人間の体も留まっていることができないでしょう。なぜなら我々の体は原子でできているから。素粒子は大別して、光子など力を媒介する粒子(これをゲージ粒子という)と物質を構成する粒子に分かれます。前者はボーズ粒子、後者はフェルミ粒子といいます。

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